Pentium III-S Dual の夢

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そこそこ前、一時期憑かれていて、使った経験のない Pentium III-S デュアル構成のマシンが組みたくて仕方がなかった。 最初は組めたら面白いだろう程度だったが、当時の記事を跋渉し始めると寝ても覚めても鱈!鱈!鱈!になってしまい、とうとう呑まれた。 気づけば 20年以上前の PC パーツが集まっていた。

パーツが集まってしまったからには組まねばならぬ。 世話が焼けたのはどうにもヤニっぽかったマザボで、コンデンサ交換の前に洗ってやる必要があった。 隙間があるから当然だが、濯ぐ時 BGA の下を水が流れる様子や、下に流れ出てメモリスロットや PCI スロットに水が溜まらない様子はどうも不思議に見えた。 洗えばヤニっぽさはほぼ消えて無くなった。 幸い他のパーツはやや綺麗めな中古程度、埃を飛ばしたり拭ったりするくらいで然程手間がかからずに済んだ。

コンデンサが思ったより多かったために少々苦労したマザボの整備が終わって、揃ったパーツをがっちゃんこしたらば何の問題もなく POST が通り起動した。 memtest86+ も2コア2スレッドを認識して完走した。 今思えばこの辺りが最高潮だっただろうか。 演算を行い熱を発する Pentium III-S デュアル CPU マシンが確かに眼前にあった。

いざ OS のセットアップだが、こういう時に使うのは Gentoo 以外ありえないという先入観により満場一致で Gentoo が選択された。 しかし一応他にどんな候補があるかと調べたが、i386 をサポートする OS やディストリビューションが少なくなってきているのを否応なく感じさせられ、やや寂しい気持ちになった。 Gentoo への感謝の念を胸にパーティションを切り、stage を導入し、menuconfig し、カーネルのコンパイルを仕掛けた。 この時はカーネルのコンパイルに100分かかった。 これより以前、シングル CPU の K6-2+ 450MHz で10時間かかったことがあるので、割と早く終わったような、大分順調であるような気がした。 引き続く各種設定をこなし、Gentoo の基本的なシステムのインストールが終わり、これからその上に乗っかる環境を組み立てる段階になって、燃え尽きた。 正直、更に導入することになるであろうソフトウェアのビルドにかかる時間を想像して憂鬱さが勝ってしまった。 そうして CPU が冷め、夢が覚め始めたのだった。

それでも往生際悪く覚めきれず諦めきれない自分の手が握りしめたのは Windows XP だった。 Gentoo の導入を高速な別のマシンを利用して行うというのは受け入れられなかった。 しかし、XP でなければ動かず、かつ動かしたいプログラムがぱっと思い浮かばなかった。 いや、暫く使って引退させた Kinesis のフットスイッチの設定が XP まででなければできなかったような記憶があるが、無念そのフットスイッチは引退の結果手元にはなかった。 とは言えど XP を使っていた経験があるせいだろう、少し触っていると懐かしくなってきたので、当時使っていたソフトウェアを持ってきて動かしたりゆめりあベンチを回したりして遊び程度に使うようになった。 Gentoo をインストールしてやろうとしていた時に比べれば何ともふやけた使い方だったが、これはこれで心地の良い体験なのは事実だった。

その平穏は割合早々に破られた。 どうにも上手く動かないプログラムがあり、調べると x64dbg という現在も開発が続いているデバッガが XP に対応しているようだったのでこれを用いて調査を試みたが、そもそも x64dbg 自体が上手く動かない。 仕方がないので x64dbg を OllyDbg でデバッグしたら SSE2 命令がそこにあった。 このマシンはこの命令を実行できないことは分かっていた。 x64dbg を自力でビルドする案も一瞬過ぎったが結局これ以上調査や対処をするのをやめた。 これを機に XP を起動することはなくなり、暫く後、友人に XP でデバッガをデバッグして SSE2 命令を見つけたことを話したら中々面白がってくれた。 この会話で未練を大体片付けられたのかさっぱりして、遂に Pentium III-S デュアル機は解体された。

解体はしたものの、このマシンは処分されるには至らず眠りについた。 CPU だけ思い出程度に抽斗の隅に入れてある。 振り返ればこのご時世にデュアル構成の Pentium III-S それ自体を目的にするなど、大概酔狂なことだった。 当時の記事を読んで一人盛り上がってそこで登場した物品を揃えたとしても、記事が書かれたまさにその時代に居るかのような体験に必ずしも結び付く訳ではない。 現代の現実の中でこのマシンを組めば、スマホを持った瞬間、USB-C 機器を使った瞬間、タスクマネージャを起動した瞬間、否が応にも夢から覚めてゆく。 しかしそれでも、夢を見るべく再びこのマシンに火を入れるような寝付けない夜が来たら、そうなれば拒めないだろうと抽斗を横目に思ってしまうのであった。


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